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演題

大会 第27回全国介護老人保健施設大会 大阪
演題カテゴリ 101 入所 > 207 有意差が検討されたデータのある研究 > D3313 認知症 種々の療法
演題名 認知症高齢者を対象としたマニキュア介入の効果
副題 女性8名を対象とした3カ月間の介入とBPSDの変化
発表者 坂本将徳 1 , 津田隆史 1 , 駒崎卓代 1 , 竹内宏充 1 , 西井大貴 1 , 久安由香里 1
所属機関 1 介護老人保健施設 古都の森 、2吉備国際大学 保健医療福祉学部
発表の狙い
抄録要旨 介護老人保健施設に入所中で認知症を有している女性の高齢者8名を対象者として、マニキュア(カラーリング)介入の介入を3ヶ月間実施した。その結果、QOLとBPSDについて有意な改善傾向が認められた。
本文
【取組の背景】 日本の総人口に占める65歳以上の高齢率は平成26年時点で26.0%、そして2060年には2.5人に1人が65歳以上という超高齢化社会を迎えると推測されている。また、高齢者の人口増加に伴って認知症高齢者の人口も比例して増加傾向であり、2035年には約337万人に到達するとも報告されている。そのため平成18年度の介護保険制度改正に伴い、介護老人保健施設においては軽度認知症者を対象とした認知症短期集中リハビリテーション加算が導入された。そして平成21年度の介護報酬改定では対象が軽度から中等度および重度認知症者までに拡大されており、認知症におけるリハビリテーションへの重要性が高まっていると考えられる。 このような状況の中で認知症高齢者の介護やリハビリテーションの現場において、“BPSD(behavioral and psychological signs and dementia)”への対応が課題とされてきている。BPSDとは「認知症の行動および心理症候」と言われ、「認知症患者に高頻度でみられる認知、思考内容、感情、行動障害」と定義されている。先行研究でも、BPSDの程度がADL(日常生活動作)や認知機能に影響し、さらに介護負担にもっとも影響を及ぼしている事が報告されている。このように、BPSDに対する問題が浮き彫りになっているにも関わらず、BPSDの治療・対応についての研究は行われているものの、確立されていないのが現状である。 認知症ケアでは、認知機能の低下自体よりも、むしろ周辺症状が治療や介護上の問題になることが多いとの報告もある。実際、当施設においても認知症専門棟を設けていることによって、日頃から多数の職員が認知症ケアにあたっているが、認知症者への対応に慣れている現場職員でさえも認知症の周辺症状に苦慮しているのが現状である。しかし最近、当施設ではBPSDが顕著に見受けられている女性の利用者様に対して、外部ボランティアの方が来られて手指へのマニキュアによるネイルカラーリングを実施している姿を見て驚かされる事象に多数遭遇してきている。それは、普段から徘徊や大きな声を出すなどのBPSDが顕著に現れている方が、マニキュア介入をされている際には施術が終わるまでの約10分間、おしとやかに落ち着いて座られており、終わった後には笑顔で自分の手を満足げに眺めているのである。この場面を見て私達はBPSDの軽減に対して効果が期待できるのではないかと考えた。しかし、マニキュア介入に関する先行研究は散見されるものの、マニキュア介入によってBPSDがどのように変化するのかについて着目した研究は非常に少ない。マニキュアは手軽におしゃれをした気分になることが期待でき、QOLの向上に対しても効果が期待できる。そしてリハビリ専門職員が行うような知識や技術は必要ではなく、介護士やご家族の方でも手軽に行えるという利点がある。介入時間も比較的短く、施術に失敗してもすぐに修正が可能であり、施術後は数日間、介入の必要がないという利点もある。 そこで今回の取り組みでは、対象者を介護老人保健施設入所中の女性認知症高齢者として単色のネイルカラーリング介入を行った際には、BPSDを含む精神機能面がどのように変化するのかについて着目した。なお本取り組みでは、リハビリ職員と介護士が協働し、ネイルアート介入はもっぱら介護士が実施し、評価や統計解析などの効果検討についてはリハビリ職員が中心となって介護職員と一緒に実施した。
【対象】 対象者は、適格条件と除外条件に照合して選定した、介護老人保健施設に入所中の女性認知症高齢者8名にとした。
【介入内容】 介入群に対して、2週間に1回の頻度で単色のネイルカラーリングを実施した。施術の際には前回のカラーリングをリムーバーで除去した後、対象者本人に新たに色を選んでいただいて施術を行った。
【評価項目】 本研究における評価項目は、「認知機能面の評価(MMSE:Mini-Mental Scale Examination)」・「BPSDの評価(NPI:Neuropsychiatric Inventory)」・「QOLの評価(QOL-D)」とした。対象者に対する評価の実施は、「介入前・介入開始1ヶ月・介入開始2か月・介入開始3か月」の4時点とし、1ヶ月に1回の頻度で実施した。
【得られた数値の解析】 各評価項目(MMSE/NPI/QOL-D)の得点について、反復測定による一元配置分散分析を用いて比較検討を行った。得られた数値のすべての解析において、解析ソフトSPSS(バージョン21)を使用し、検定におけるp値は両側(有意水準:p<0.05)とした。
【結果】 QOLにおいては、下位項目3項目のうち2項目に有意な平均値の上昇がみられた。有意な平均値の上昇がみられた項目は「周囲との生き生きとした交流(P値=0.006)」と「対応困難行動のコントロール(P値=0.000)」であった。NPIでは「合計得点」と「負担度得点」において平均点の有意な上昇がみられ、前者は0.001、後者は0.000という強いP値を示した。
【考察・結語】 本取り組みでは介護老人保健施設に入所されている認知症の女性高齢者8名を対象として3カ月間のマニキュア介入を行ったところ、QOLとBPSD症状において部分的ではあるものの有意な効果が示唆された。堤谷ら(2008年)によると、マニキュア介入によってQOLと免疫機能が向上し、ストレス・不安度が低下したと報告されている。また、平松(2001年)や押川ら(2009年)、福嶋ら(2014年)は、マニキュアの塗布は部分的であるが、精神的な側面でのリラクセーションに有用であり、リラクセーションによる精神面すなわち情動の安定は、行動障害の軽減に役立つことが期待されることが報告されている。本取組の介入内容では、施設入所という閉鎖された共同生活の場で生じたストレスや不安をネイルアート介入により精神面へのリラクゼーション効果に繋がり、BPSD症状が有意に減少する結果に繋がったと考えられる。